東京都中央区立常盤小学校 6年国語「学級討論会をしよう」

 2011年6月25日(土)、中央区立常盤小学校の学校公開があり、6年生の国語では学級ディベートが行われていました。「大人のほうが得である」というテーマについて、肯定側と否定側に分かれ討論するもので、小学生ながら核心をついた主張が展開されていました。(校内研究用学習指導案から適宜引用させていただきます。)

中央区立常盤小学校のプロフィール

20110804_photo1873年(明治6年)3月、「幼童学所」として開校。同年8月、官立の第一大学区第一中学区第四番小学常盤学校となります。1881年、本革屋町5番地に男女合併の新校舎落成。1908年、校名を東京市常盤尋常小学校と改めました。1923年、関東大震災で校舎が全焼しましたが、1929年(昭和4年)現在の校舎竣工。1947年、中央区立常盤小学校となりました。JR総武線快速新日本橋駅から徒歩約5分、地下鉄銀座線・半蔵門線三越前駅から徒歩約10分。ビルが林立する街並みながら、日本銀行旧館や史跡が点在し、常盤小学校の校舎自体も関東大震災後の復興建築として記念される、歴史を感じる環境です。
(学校ホームページ参考)

 

児童数      (2011年4月現在 各学年1学級ずつ)

学年 1 2 3 4 5 6
人数 16 18 20 28 24 19 125

 

授業

8:35~9:20  6年1組 14名(男子6名、女子8名)
教科:国語  単元:相手の意図を聞き取り、自分の主張を伝えよう
「学級討論会をしよう」(光村図書 6年)
話題:「大人の方が得である」
授業者:木村啓一 教諭

〈これまでの「話すこと・聞くこと」についての学習〉

 話すこと・聞くことについての学習は、5年で「インタビュー名人になろう」「失敗をめぐって」等の教材を中心に行ってきました。特に、「インタビュー名人になろう」では、話し手の意図をとらえながら聞くために、メモを活用した結果、日常生活でも使っている児童が見られるようになりました。
 「朝の1分間スピーチ」は、豊かな表現力を身に付けるために、日常、気になったニュースの紹介とそれに対する自分の考えを話す学習で、継続して行っています。それにより、根拠と感想を意識して分けて話すことができるようになってきています。
 6年になり、5月の国語・説明文「生き物はつながりの中に」では、作者の考えに対する自分の考えをまとめ、友達との意見交流文を行いました。自分の考えと比べて聞き、どこが同じでどこが異なり、それを発見して、さらに自分の考えを深める学習を行っています。

〈本単元について〉

①目標
・テーマに沿って、話し手の意図をとらえながら聞き、自分の意見と比べるなどして考えをまとめることができる。
・互いの立場や意図をはっきりさせながら、計画的に話し合うことができる。
・討論会における言葉の使い方などについて関心をもつことができる。

②子どもが生き生きと学ぶ指導の工夫(本校の研究主題)
・教材の工夫
児童の興味関心があり、互いの立場や意図をはっきりさせやすく、友達の意見と自分の意見を比較しやすい話題で、話し合う価値のある話題を精査し選択。
・学びの工夫
  話の内容が充実し、安心して話せるように討論会にむけて調べる時間を確保する。
  始めの主張が大切であると考え、始めの主張はカードに書いて提示し、話し合いが苦手な児童の支援とする。
  「話し方」を明確化する。話し合いに役立つ言葉や話型を取り上げて教室に掲示する。言葉のマナーについても学ぶことができる。
  「聞き方」を明確化する。相手の発言をメモする。ワークシートを活用しながら、相手に賛成のところ・反対のところを見つける。
・相互交流の工夫
  討論会へ積極的に参加できるように、1グループの人数を5人までとし、建設的な話し合いができるグループを意図的に編成する。
  話し合いが広がり、考えを深めさせるために、聞いたことを整理し、根拠を明確にして意見をまとめる時間を確保する。
  生き生きと討論会に取り組むように、児童は肯定側・否定側・聞き手の3つに分かれ、聞き手は肯定側・否定側どちらがより説得力があったかの客観的な判断を行って、勝敗を競うゲーム的な要素を取り入れる。

③前時までの学習
 7時間の学習で、討論という方法・形式について知り、討論会の進め方・主張や質問の仕方、討論会の意義を理解します。話題を決め、調べたり考えたりして準備をし、ABCDの4グループに分かれて、第1回討論会「小学生は携帯電話を持っているべきである」を行いました。肯定:B、否定:A、聞き手:CD。第2回はグループを変え、話題は「中学生も電車の運賃は大人の半額にするべきである」で討論会をしました。肯定:D、否定:C、聞き手:AB。7時間目には、「伝えにくいことを伝える」を読み、伝えにくいことを伝えるとき、どのようなことに気をつければよいかについて考えました。
 今回は第3回目の討論会になります。

〈第3回討論会「大人の方が得である」〉

①教室内の位置
             先生
否定側:男子6名              肯定側:女子3名
    女子8名
            聞き手:男子2名
                女子1名
②最初の主張
肯定側:大人は夜更かしができ、親に制限されずに物が買えるからである。
否定側:子どもの方が得である。電車やレジャーランドの料金は安くなるからである。
③質問:【肯定側へ】子どもでも大人からお金をもらって自由に買えるのではないか。
    【肯定側へ】大人は忙しくて好きなことができないのではないか。
    【否定側へ】レジャーランドの料金が安くても、身長制限があって楽しめない場合があるのではないか。
④最後の主張
否定側:悪いことをしても、子どもは新聞に名前が載らないし、困ったときに大人に甘えることができる。大人になると責任が大きくなるから子どもの方が得であると考えます。
肯定側:大人の方が得だと思います。なぜなら、お父さんにお酒をプレゼントしたくても子どもでは買えないからです。子どもは確かに自由な面もありますが、大人は子どもに比べてできることが多いから、得です。否定側の主張を使って言うと、平均寿命のことで(大人は子どもより生きられる年数が短いということですが)、大人は残り(の年数)を楽しめばいいという意味で、たくさん働く間の休みに楽しむことができます。これで最後の主張を終わります。

⑤聞き手の判定
男子1:「否定側のほうが説得力があったと思います。なぜなら、ドラえもんやのびたのように、我慢してお金を貯めて欲しいものを買ったほうが喜びがあるからです。」
男子2:「否定側のほうが説得力があったと思います。なぜなら、お年玉がもらえたり、大人に甘えることができるから、子どもの方が得なんじゃないかと思いました。」
女子1:「私は途中まで、どちらも説得力があったから迷いましたが、大人の責任は子どもよりはるかに大変なので、否定側に説得力があったと思います。」

〈まとめは先生〉

先生:「これで第3回目の討論会を終わります。元の席に戻してください。」
  「筋道に沿って話し合うことができるようになりました。主張は、「自分はこう」というところに立ち返るところにあります。一貫して主張することが大切です。否定側は、大人は自由で、子どもは自由が制限されているけれど、そのかわり守られているということでした。肯定側も、よく考えました。これからも考えてください。今日は考えるきっかけでした。丸やばつは付けません。根拠を持って話し合いができることが大事です。」

取材を終えて

 今回は学校公開でたまたまレポーターが出会った授業でしたので、途中からしか参観できませんでした。そのため、学習指導案を参考にさせていただき、最初の主張から否定側の最後の主張までは、先生にレポートしていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。
 2010年度の法務省法教育懸賞論文で優秀賞となった論文に、「国語科における法教育」を提案するもの(京都教育大学附属高等学校 札埜和男教諭)がありました。それによると、法教育で重視される思考力・判断力・表現力などを高めることや、法やルールの背景にある価値観を考えるといったことは、国語が目標とする能力の育成と合致するということです。6年生の学級討論会の学習は、討論会の準備として、主張の根拠となることを調べたり、考えたり、仲間と話し合ったりします。本番ではメモを取ることで相手の言うことを聞く能力を高め、自分の考えもまとめる力を付けます。
 テーマについては、第1回討論会が「小学生が携帯電話を持っているべき」、第2回が「中学生の電車賃は大人の半額にするべき」ということでした。これらは、大人と子どもの違いについて考えさせる点で、第3回のテーマにつながる一貫性があります。子ども達は、大人の自由と責任、子どもの受ける制約と危険からの保護について、きちんと理解しており、これから実社会で生きて働く力として大事なことを考え、学習したことがわかります。まさに法教育の基礎となる、意義ある授業だと思いました。

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